あなたの会社では、「コンプライアンス対策」の取り組みについて、どこまで把握できていますか?
インターネットやスマートフォンの普及と共に、コンプライアンスの在り方や企業側の向き合い方にも大きな変化が起きています。
この記事では、最近起きたコンプライアンス違反の事例や適切な運用ポイント、実施すべき項目の優先度などについて解説します。
企業のコンプライアンス対策とは
現代の企業コンプライアンスの定義は、法令遵守を原則として、社会秩序を乱さないことや企業として持つべき倫理観についても含まれます。
コンプライアンス違反が発生すれば、企業は社会的な信用を失い、経営自体にも大きな影響を及ぼす可能性があるからです。
従業員全体への理解の浸透と定着化を促すには、コンプライアンス対策が必要不可欠といえます。
コーポレートガバナンスとは、企業統治と訳され、企業経営を監視する仕組みのことであり、監査役・監査役会や社外取締役等を設置し、不公正な判断・経営がされないよう相互に経営全体を監視する仕組みや枠組みを指します。
これに対してコンプライアンス対策とは、個別の事例において法令等に違反しないためのルールを決めるものを指します。
コンプライアンス違反の代表的な事例3選
近年のコンプライアンス違反の中でも、時事的な要因と重なり、影響力が大きく話題となった事例をご紹介します。
あわせて、不祥事の発生による事後トラブルや損害についてもみていきましょう。
不正競争防止法違反の例
大手通信会社の元従業員が転職先の企業に、基地局設備や固定通信ネットワークに関する技術などを不正に持ち出し、不正競争防止法違反容疑で逮捕されました。
最新技術に関する情報流出のため、メディアでも非常に大きく取り上げられました。
- 転職先の企業に対し、4つの基地局の停止
- 元従業員に10億円の賠償請求
不正受給の例
新型コロナウイルスの影響による社会保障として、個人事業者向けに配られた持続化給付金の不正受給事件の一例です。
地方新聞社の元従業員が嘘の申告を行い、中小企業庁から100万円をだまし取り逮捕されました。
「個人の負債にあてるため」という非常に身勝手極まりない理由や類似の事件も多発し、話題となりました。
- 懲戒解雇処分
- 刑事裁判により、懲役1年6月、執行猶予3年
ハラスメントの例
大手化学メーカー従業員が、育休明けに企業から不当な転勤辞令を出されたことについて妻がTwitter上で暴露し、拡散の末炎上しました。
同社は、公式ホームページ上にワークライフバランスに言及したページを設けていたにもかかわらず、男性のパタハラ(パタニティー・ハラスメント)問題を起こしたとして話題になりました。
また、炎上直後の対応にも批判が集まり、企業のイメージダウンや一時株価が暴落するなど、多大な影響を及ぼしました。
- SNSやネット上の広範囲で炎上
- 事件直後、株価2割下落
コンプライアンス対策で重視すべきポイント
コンプライアンス対策を実施する際には、企業全体としての視点や各部署・役職なども含む多角的な視点を持って取り組む必要があります。
それぞれの重要なポイントに分けて整理していきましょう。
法務部に求められるポイント
法務部には、社内の一般業務と法律の分野を取り持つ役割が求められます。社内規定や行動指針、管理体制を整えた上で、全従業員に対する共有と周知を行う必要があるのです。
また、現場の声を反映しつつ、上層部のコンプライアンス意識とのずれがないかなど、社内外問わず調整役としても重要な役割を果たします。
管理職に求められるポイント
コンプライアンス対策における管理職の役割は、組織全体を見たリスクマネジメントと、自らが模範となり社内へ浸透させることです。
コンプライアンス全般に対する知識はもちろんのこと、違反行為が企業に及ぼす影響までを筋道立てて理解しておく必要があるでしょう。
また、責任のある立場として、部下に対する指導や小さな違反も見逃さず、毅然とした態度でコンプライアンス遵守に臨みましょう。
企業として求められるポイント
企業全体で考えた際の取り組み方としては、優先度の高いコンプライアンス対策から実施していくことが推奨されます。その中でも更に、緊急性と重要性の二つに分けて考えることが重要です。
緊急性の高いコンプライアンス対策
法律違反にあたる行為が現場で起きていたり、労働基準監督署からの是正勧告を受けているにもかかわらず、未対応になっているなどの事象があれば早急に対策しましょう。
また、そのような事象がそもそも起こらないように、未然に防ぐ対策も必要です。
重要性の高いコンプライアンス対策
現時点では、即時的な実害につながる可能性は低いが重要性は非常に高い課題です。これらは、中~長期的な期間を見据えて実施していきましょう。
主に、企業としての行動規範や指針の見直し、業務フローの改善といったところが該当します。
最優先すべきコンプライアンス対策
実際にコンプライアンス対策に着手する際は、前述の対策優先度を元に考える必要があります。
まずは、緊急性と重要性がいずれも高いコンプライアンス対策についてみていきましょう。
社内規則・基本方針の策定
社内秩序の維持や業務効率化の目的を前提に、次の項目を具体的に整理して考えます。
- 社内の現状課題やリスク面の洗い出し
- トラブル発生時の対応策と事後リスク
- 違反従業員への罰則規程
また、策定後には、共有フォルダや紙面、誓約書など自社の方針に合った形で共有しましょう。
コンプライアンス教育研修の実施
策定したルールやガイドラインは、そのまま内容を共有するだけでは不十分です。全従業員に向けて当事者意識を持たせ、意図する内容をしっかりと理解・浸透させるためには教育研修が必須です。
受講者には目的とゴールを明示し、コンプライアンス違反となる背景や類似の事例紹介なども行うことで、効果の最大化につながります。
また、コロナ禍以降はオンラインやeラーニングで研修を実施する企業も増えています。
コンプライアンス研修についてはこちらの記事で詳しく説明されています。
内部通報制度の設置
コンプライアンス違反が発生した際に、社内で相談できる制度、または部門のことです。
問題の早期発見にもつながり、その後の対応や解決策がスムーズに行われるなどのメリットがあります。
また、内部通報者に不当解雇などの不利益が生じないよう、「公益通報者保護法」という法律が定められています。
次に優先度の高いコンプライアンス対策
コンプライアンス対策の基盤ができたら、次は各項目の精度を高めるために肉付けを行っていきましょう。
特に、課題解決における重要度の高さを意識して考えることが大切です。
業務ガイドラインの策定
会社全体のルールを定めた社内規定とは別に、各業務が適切に遂行されるためのガイドラインも必要です。
既存のガイドラインがある場合は、現在の自社の業務内容や状況に合ったものか見直しも必要になるでしょう。
また、属人的な管理や判断基準となっている部分の統一化という役割も果たします。
階層別研修の実施
新入社員や若手社員、中途入社、管理職、経営陣など、組織内の立ち位置や役割ごとに区分けし、研修を実施しましょう。
全従業員向けの研修とは異なり、それぞれの立場や業務内容によって指導する内容をカスタマイズする必要があります。
一般的なピラミッド型組織の階層別研修は、このようなイメージです。
社内環境の見直し
コンプライアンス違反が起きる背景には、企業文化や社内の雰囲気なども要因として考えられます。
例えば、利益や成果主義にこだわりすぎた結果、法律違反をおかしたり、コンプライアンス違反を指摘できない環境を生み出すこともあります。
社内環境の改善は、ルールだけで変えることが難しいため、従業員同士のコミュニケーションを高める取り組みなども含めて検討してく必要があるでしょう。
優先度は落ちるが重要なコンプライアンス対策
前述の項目を一通り整備した上で、取り組みたいコンプライアンス対策を紹介します。
即時的な成果が見込める対策ではありませんが、企業経営においては、長期目線で重要な対策といえます。
人事評価制度の整備
人事評価制度の目的は、従業員の成果や功績などを元に公平な評価を行うこと以外にも、改善点の指摘やその根拠としても活用できます。
また、成果に至るまでのプロセス部分も細かく評価することで、行動に対する詳細の把握や社内環境の見直しに生かすこともできるでしょう。
コンプライアンスの専任部門の設置
コンプライアンスに関する専任者や専門部署を設けることで、問題が発覚した際の早期改善策や相談役として機能してくれます。
また、近年の企業不祥事増加に伴い、社内にける適切なコンプライアンス管理責任者として、「コンプライアンス・オフィサー」と呼ばれる役割にも注目が集まっています。
コンプライアンス・オフィサーの主な役割は次の通りです。
- 社内ルール・ガイドラインなどの作成・管理
- 社内コンプライアンスの監視・調査
- コンプライアンスに関する社内教育・研修開催など
内部監査、第三者機関などの仕組み化
内部監査は、企業内部の人間が他部署から独立した立場で、組織の業務や社内規程などに問題がないか監査することです。
利害関係によって問題の調査や判断基準が鈍らないように、他の部署とは切り離し、独立性を保つ必要があります。
外部監査は、上記の監査を外部の専門家に委託することです。一定規模以上の企業では、外部監査の実施義務があり、それによってステークホルダーからの信用を得られることになります。
SNS時代のコンプライアンス対策
スマートフォンやSNS(ソーシャルネットワークサービス)の普及、発展と共にコンプライアンス対策の在り方も変わってきています。
年々、従業員のSNSによる炎上問題や情報漏洩などのコンプライアンス違反が増加しているのはご存知でしょうか?
そのような背景の中で、SNSリスクについて独立した研修を行う必要性が生まれてきました。
まだまだ適切な対策を行えている企業は少ないため、基本的な取り組みについて紹介します。
SNSリスク研修の導入
SNSリスクについて、全従業員の基礎リテラシー向上や年代間での知識の統一化を目的として実施する研修です。
学習内容は、SNSごとの特徴やNG行為などの基礎的な知識から、具体事例を盛り込んだケーススタディ、ガイドライン策定方法、グループディスカッションなど幅広く学ぶ内容があります。
専門的な知識も必要な分野なので、自社完結するのが難しい場合は、研修会社に委託することもおすすめします。
SNS研修についてはこちらの記事で詳しく説明されています。
SNSガイドライン・ポリシーの策定
SNSガイドラインとは、従業員向けのソーシャルメディアの利用指針やルールについて記されたものです。
自社の公式アカウント運用について細かくルール化したものや、スタンス、心構えといった外部向けの内容まで、公式サイトに掲載する企業も増えています。
SNSガイドライン・ポリシーの策定についてはこちらの記事で詳しく説明されています。
WEBモニタリングの実施
WEBモニタリングとは、「従業員のネット上における投稿を監視すること」です。
匿名によるクレームや個人情報が露出した投稿など、炎上の火種を一早く発見し、対応することで、リスクを未然に防ぐ目的があります。
多くの企業では、有人監視を行う専任者の起用が難しいため、モニタリングの代行をしてくれる業者に依頼するのが良いでしょう。
WEBモニタリング(投稿監視)についてはこちらの記事で詳しく説明されています。
コンプライアンス対策を成功させるためのまとめ
コンプライアンス対策には様々な方法がありますが、まずは優先順位と重要性を基準に、自社で取り組む内容を話し合いましょう。
また、昨今のコンプライアンス違反の大きな要因でもある、SNSリスクについて十分に理解し、注力していくことも今後検討すべきです。
そして、コンプライアンス対策を周知・浸透させるためには、なによりも社内教育や研修が欠かせません。
企業全体の問題に対し、一人一人の意識改革を促すことが成功につながる重要なポイントになるでしょう。
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清水 陽平