SNSやオンライン上での誹謗中傷は、企業の評判を損ない、個人の権利を脅かす可能性があり、重大なリスクになります。
誹謗中傷への対応には迅速な対策が求められますが、特に中小企業においてはリソースが限られているため、対応が後手に回りやすいという課題があります。
しかし、適切な体制を整えることで、リスクを大幅に軽減し、企業のブランド価値や個人の尊厳を守ることが可能です。
本記事では、誹謗中傷対策の実践的な運用方法と、効果的なリスク管理手法について解説します。
誹謗中傷対策の必要性とその影響
誹謗中傷は、企業の経営に深刻な影響を与えるリスクです。
SNSや掲示板、口コミ・評判サイトが普及する中、ネガティブな発信が瞬時に広がり、その影響は急速に拡大します。
ここでは、誹謗中傷が企業に与える具体的な影響について解説します。
誹謗中傷が企業に与える悪影響
誹謗中傷は、企業の評判やブランド価値に深刻なダメージを与えることがあります。
企業は顧客、取引先、従業員など多くのステークホルダーとの信頼関係に基づいて成り立っています。
SNSで誹謗中傷が拡散することで、信頼関係が損なわれ、顧客離れや取引停止といった事態を引き起こす可能性があります。
例えば、「製品の品質が低い」「サービス対応が悪い」といったネガティブな投稿が広がると、企業のブランド価値に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
誹謗中傷発生時の基本的な対応手順
SNS上で誹謗中傷が発生した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。
ここでは、誹謗中傷発生時の基本的な対応方法について解説します。
SNSのミュートやブロック機能の活用
SNS上で誹謗中傷が発生した場合、まずは「ミュート」や「ブロック」といった機能を活用することが有効です。
これにより、問題のあるアカウントとの接触を制限できます。
ミュート機能
特定のアカウントからの投稿をタイムラインに表示させなくする機能です。
誹謗中傷の投稿が目に入らなくなることで、ストレスや心理的負担を軽減できます。
ブロック機能
問題のあるアカウントからのコンタクトや投稿の閲覧を完全にブロックする機能です。
特に、執拗な嫌がらせが行われている場合に有効です。
これらの機能は、主要なSNSプラットフォーム(X(旧Twitter)、Instagram、Facebookなど)で提供されています。
事前に操作方法を確認しておき、誹謗中傷を受けた際には迅速に対応できるよう準備しておきましょう。
投稿削除依頼の方法と実践
誹謗中傷の投稿削除を依頼する際には、以下の手続きを踏むことが求められます。
通報機能の活用
各SNSには、不適切な投稿を通報する機能があります。
この機能を使って、該当する投稿が利用規約に違反していることをSNS運営会社に報告します。
削除依頼フォームの利用
深刻な誹謗中傷については、SNS運営会社が提供する削除依頼フォームを通じて申請します。
この際、具体的な理由や証拠を提出することが求められます。
正確で詳細な申請内容を記載することで、削除が実現しやすくなります。
誹謗中傷対策の運用とガイドラインの整備
企業が誹謗中傷に効果的に対応するためには、社内ガイドラインの整備による運用体制の強化が重要です。
ここでは、ガイドライン作成のポイントと、従業員教育を通じた意識向上の方法について解説します。
社内ガイドラインの作成と浸透方法
誹謗中傷対策を実効性のあるものにするためには、企業内で明確なルールや基準を設ける必要があります。
➀目的の明確化
ガイドラインは単なるルール集ではなく、企業が誹謗中傷にどう対応し、何を守るのかを明確に定義することが重要です。
例: 「ブランド価値の保護」「従業員の心理的安全の確保」「法的リスクの軽減」など。
➁具体的な行動指針を定める
行動指針の例は以下になります。
SNS利用時の注意事項
SNSを利用する際、企業の価値や信用を守るため、投稿内容に十分な注意が必要です。
誹謗中傷や不適切な内容を発信しないように心掛け、社会的責任を持った行動を促します。
誹謗中傷発生時の報告手順
誹謗中傷が発生した場合は、速やかに責任者や管理者に報告する手順を徹底します。
報告は適切な手段を通じて行い、迅速に問題解決に向けた対応ができるようにします。
問題投稿に対する証拠収集や削除対応の整備
誹謗中傷の投稿が発生した場合、どのように証拠を収集し、削除対応を行うかを明確に定義します。
証拠収集の方法としては、パソコンでの証拠のPDF印刷を推奨し、削除依頼の手順を整備することで、迅速で効果的な対応が可能です。
ガイドライン浸透のための施策
ガイドラインを作成するだけでなく、従業員全体に浸透させるための取り組みも重要です。
社内研修の実施
新入社員研修や定期的な研修を通じて、SNS利用ルールや誹謗中傷対応の基本を学びます。
実際のケーススタディを取り入れ、従業員が状況に即した対応を学べるようにします。
ポータルサイトによる共通理解
ガイドラインや対策マニュアルを社内ポータルサイトに掲載し、従業員がいつでも確認できるようにし、誹謗中傷対策に関する従業員の共通理解を深めます。
モニタリングツールと運用サポートの活用法
誹謗中傷投稿を早期に発見し、迅速に対応するためには、モニタリングツールの活用が非常に効果的です。
ここでは、モニタリングツールの主な機能と選定基準について解説します。
モニタリングツールの機能と選定基準
モニタリングツールを導入する際は、以下の機能と選定基準を考慮しましょう。
キーワード検索機能
自社名や製品名、関連キーワードを設定することで、誹謗中傷に該当する投稿を検出します。
これにより、問題を早期に発見することができます。
アラート機能
問題のある投稿が検出されると、即座に担当者に通知され、迅速に対応できる体制が整います。
分析機能
ネガティブな投稿の件数や影響範囲をグラフ化して可視化することにより、リスクの規模を把握しやすくなります。
これにより、対応戦略の立案がスムーズに進みます。
対応プラットフォームの範囲
X(旧:Twitter)、Instagram、Facebookなど主要SNSに対応しているかを確認します。
複数のSNSをモニタリングすることで、問題投稿の見逃しを防げます。
コストパフォーマンス
月額費用と機能のバランスが取れているかを確認します。
特にコスト面が重要な中小企業にとって、リーズナブルな価格設定が求められます。
サポート体制
導入時や運用中に必要なサポートを受けられる体制が整っているか確認しましょう。
特に、トラブル発生時に迅速に対応できるサポート体制があると安心です。
これらの基準をもとに、自社に最適なモニタリングツールを選定し、効果的に運用することで、誹謗中傷対策を強化できます。
法的リスク管理と適切な対応策
誹謗中傷への対策では、法的リスク管理が欠かせません。
ここでは法的なリスク管理方法と対応策について解説します
誹謗中傷に関連する法律と基本的な知識
誹謗中傷問題に法的に対応する際には、以下の法律や用語を理解しておくことが重要です。
名誉毀損罪(刑法230条1項)
名誉毀損罪は、公然と他人の名誉を毀損する行為を対象としています。
名誉毀損罪が成立するためには、その発言や行為が他人の社会的評価を低下させるものである必要があります。
特に重要なのは、事実無根の情報を拡散した場合だけでなく、真実であったとしても、その内容が他人の名誉を傷つける場合にも名誉毀損罪が適用されることです。
真実であっても公に公開することで社会的評価が低下する場合は、名誉毀損に該当する可能性があります。
侮辱罪(刑法231条)
侮辱罪は、他人を公然と侮辱する言動をした場合に適用されます。
侮辱とは、事実の摘示を伴わずに他人の社会的評価を低下させるものを指します。
ここでの「事実」とは具体的な事実関係について言及しているかどうかという問題であり、「真実」とは意味が異なります。
例えば、悪口や侮辱的な言葉などが該当します。
2022年の法改正により、侮辱罪の罰則が強化され、より厳しい処罰が科されるようになりました。
改正前:最大で「拘留又は科料(最大1万円)」という軽い罰則が適用されていました。
改正後:罰則が強化され、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に改定されました。
これにより、侮辱罪に対してより実効性のある処罰が可能となり、加害者に対する抑止効果が期待されています。
プライバシー侵害
「プライバシー侵害」という概念は、特定の法律に明記されているわけではありませんが、個人情報や私生活に関する内容が公然と公開される場合に該当することになります。
例えば、住所、電話番号、写真などの個人情報を無断で公開する行為は、プライバシー侵害となり損害賠償請求の対象となり得ます。
誹謗中傷と一言でいってもいろいろな類型があるため、どのようなものが何に当たるのかを理解しておくことで、迅速かつ適切な法的対応が可能になる場合もあるでしょう。
法的対応の流れと証拠収集の手順
法的対応を進める際には、以下のステップを踏む必要があります。
➀証拠の収集
パソコンによるPDF印刷
フッダーにURLが表示される設定にし、個別投稿を表示した上でPDF印刷をします。
スクリーンショットの撮影
投稿者名、投稿日時が明確に分かる形で記録します。
※パソコンがなければスクリーンショットでも構いませんが、タイムラインのスクリーンショットだと投稿日時が不明となり、相手を特定したい場合に対応が難しくなる可能性が高いです。
➁弁護士への相談
証拠が揃ったら、専門家である弁護士に相談しましょう。
インターネット問題に詳しい弁護士に相談することで、削除請求の手続きや損害賠償請求の可能性、必要な法的措置について具体的な判断を仰ぐことができます。
➂法的手続きの実施
名誉毀損罪や侮辱罪に基づき、削除請求や損害賠償請求などの法的措置を講じます。
必要に応じて、発信者情報開示請求を行い、問題のある投稿者の特定を進めます。
これらのステップを正確に実施することで、法的措置の実効性を高め、誹謗中傷への適切な対応が可能になります。
まとめ|誹謗中傷対策でリスク管理を強化する重要性
誹謗中傷対策は、企業のブランド価値や信頼を守るために必要不可欠です。
社内ガイドラインを整備し、従業員教育を通じて対応体制を強化することで、リスクの予防と迅速な対応が可能になります。
また、モニタリングツールを活用して誹謗中傷投稿を早期発見し、適切に対処することが被害拡大の防止につながります。
さらに、法的リスク管理を視野に入れ、専門家と連携することで、問題解決の精度とスピードを向上させることが重要です。
これらの取り組みを継続的に改善することで、強固なリスク管理体制を構築し、誹謗中傷に負けない企業を目指しましょう。
清水 陽平