X(旧:Twitter)やInstagramといったSNSはスマホの普及とともに多くの人が利用するツールとなりました。
リアルタイムで気軽に自分の近況などを更新できるだけではなく、普段の生活では出会えないような人とも匿名で手軽にやり取りができるSNS。しかし、その匿名性と手軽さを悪用して誹謗中傷で他人を攻撃する人が後を絶ちません。
本記事では、最近のニュースなどからわかるSNSでの誹謗中傷トラブルに対する国や企業の動きをはじめ、なぜSNS上で誹謗中傷が起こりやすいのかという心理や、実際に誹謗中傷を受けてしまった場合の対処法などを解説していきます。
実際にあったSNSでの誹謗中傷トラブルと対処への動き
SNSを中心としたインターネット上で多くの誹謗中傷を受けていた方が亡くなった事件は、まだ記憶に新しいと考えている方も多いかもしれません。
何が原因であったかは発表されていないため憶測の域を出ませんが、寄せられた誹謗中傷の内容は残忍を極めており、亡くなった原因のひとつであった可能性は高いと考えられます。
そのような事件を踏まえ、同じ悲劇を繰り返さないよう、違法性のあるSNSでの誹謗中傷に対して被害者側が毅然とした対応を取る動きも増えました。
さらに、SNSを悪用し誹謗中傷を行った人物を特定しやすくしたり、誹謗中傷の投稿自体を取り締まったりする動きに関しても政府や地方自治体、インターネット関連の大手企業を中心に進みつつあります。
企業や団体としての対応も増えてきている
2021年3月には、宝塚歌劇団が公式ホームページに「SNSやインターネット上における誹謗中傷等への対応について」というお知らせをアップしたばかりです。お知らせによると、宝塚歌劇団の舞台出演者やスタッフに対して、
・特定の出演者やスタッフを名指しのうえ、事実ではない情報をもとに、非難、攻撃をすること。
・特定の出演者やスタッフの技量、成果物その他に対し、本人を傷付ける意図を持って、批評や個人的感想を超えた言葉で攻撃すること。
・特定の出演者の人事情報について、あたかも事実であるかのような表現を使い、事実ではない情報を拡散すること。
といった行為がX(旧:Twitter)やInstagramなどのSNSをはじめとしたインターネット上で確認されたとのことです。今後は、こういった誹謗中傷に対して弁護士と協議を行った上で発信者情報開示などの法的措置を行っていくと宣言しています。
同じように、近年では都道府県などの地方自治体としてもインターネットを監視し、誹謗中傷対策を行うと表明する傾向にあります。
参考:宝塚歌劇団 公式ホームページ「SNSやインターネット上における誹謗中傷等への対応について」
参考:宝塚歌劇団、誹謗中傷などへの対応策を報告 法的措置も検討 | ORICON NEWS
SNSの誹謗中傷がなくならない3つの理由
SNSでの誹謗中傷がなくならない大きな理由として、以下の3つを挙げる事ができます。
1.「SNSは匿名だ」と思い込んでいる
2.書き込んだ本人をわざわざ特定するはずがないと思っている
3.悪い事をしている自覚がなくSNSに誹謗中傷を投稿している
1.「SNSは匿名だ」と思い込んでいる
SNSを利用する際、本名や住所など個人情報の詳細を入力する必要のあるものは少なく、X(旧:Twitter)やInstagramといったメジャーなSNSは、メールアドレス(または電話番号)があればすぐに利用する事が出来ます。メールアドレスは、無料で取得できるものも多いため、インターネットの利用に慣れている人であればフリーメールアドレスを使う事が主流と言えるでしょう。
登録時に自分の個人情報を入力していないため、投稿内で自分の個人情報に繋がる発言をしていないSNSから個人を特定することは不可能だと考えている人は一定数います。そのため、「発言者が誰だかわからないSNS」で誹謗中傷など相手を傷つける発言をします。
心理学の分野でも、人間が匿名かつ大人数の中にいることなどによる没個性化現象によって「誰かを傷つける事に対する心理的なハードルが下がること」「自分の行動に対する責任感が低下すること」が指摘されています。
さらに、匿名性と攻撃性にも関係性があることも証明されています。つまり、SNSのような匿名性の高い場所では、どのような人でも普段より攻撃的になってしまうリスクを持っていると言っても過言ではありません。
実際は、匿名であってもSNSで違法な発言を行った場合、発言をした個人を特定することも、その相手に責任を追求する事も可能です。こういった心理があるという事とともに、「SNSは完全な匿名ではない」という事も常に意識しておくべきだと言えるでしょう。
2.書き込んだ本人をわざわざ特定するはずがないと思っている
SNSでの誹謗中傷問題がニュースなどで積極的に取り扱われることが増え、誹謗中傷を行った発信者の情報開示請求をしたことを公表する被害者の方もいます。
そのため、「匿名で利用しているSNSでも、個人を特定することが可能である」という認識を持つ人は多くなりました。
しかし、匿名でSNSに違法な発言を投稿した犯人を法的な手続きを踏んで特定し、罪に問うには、現状の法律ですと少なくはない時間やお金が必要となってきます。また、被害者が法律に詳しくない人であった場合、不当な発言を受けても、その発言が法律に違反しているのか、罪に問えるのかということを個人では正しく判断できません。その上自身に向けられた誹謗中傷の内容を確認しなくてはいけない事による被害者の心理的負担も大きいのです。
そういった背景を鑑みて「どうせ法的手段に出る訳がない、わざわざお金と時間をかけて特定(に繋がる行動を)する訳がない」と考え、誹謗中傷を行い続ける人もいます。
3.悪い事をしている自覚がなくSNSに誹謗中傷を投稿している
誹謗中傷を行う人の中には、自分が誹謗中傷を行っているという自覚がない人もいます。「自分の発言は正しい」と思い込んでいたり、「相手に落ち度があるのだから叩かれて当然だ」「人に迷惑をかけた人間を徹底的に罰しなければいけない」などと思っていたりするため、行き過ぎた正義感から相手を攻撃してしまう人が一定数います。
こういった傾向は、近年のコロナウイルスに罹患した当事者やその家族に対する誹謗中傷などにも見られます。
例えば2020年5月、コロナウイルスに罹患した事を隠して高速バスに乗車した女性に対し、インターネット上で批判が集中した上、真偽不明の実名とされる名前や顔写真、SNSアカウント等が晒されるというニュースが報道されました。
この件で、誹謗中傷を行った人たちの心情としては未知のウイルスに対する恐怖や、「悪い事をした人は報いを受けるべきだ」という正義感が働いていたのではないかと考えられます。とはいえ、確かに女性の行為(=虚偽の報告や自分本位な行動)は悪い事だと言えますが、その行為を理由に人権を侵害したり、個人情報をインターネット上にまき散らしたりして良いなどと言う事は絶対にありません。
さらに、この事件では「女性の勤務先」として実際には全く関係のない企業の情報が拡散されました。その結果、デマ情報を信じてしまった人々から該当企業に抗議や嫌がらせが殺到し、大きな二次被害を生んでしまいました。
参考:山梨コロナ女性はどこまで悪者か:過剰な防衛本能と歪んだ正義感の心理(碓井真史) – 個人 – Yahoo!ニュース
参考:「ネット私刑」コロナ禍で過熱懸念 執拗に本人特定、デマも拡散 – SankeiBiz(サンケイビズ)
SNSでの誹謗中傷はどんな犯罪になるのか
SNSでの誹謗中傷が、具体的にどのような罪に問われる可能性があるのか見てみましょう。
- 名誉毀損罪・侮辱罪
- 脅迫罪・強要罪
- 信用毀損罪・業務妨害罪
- 偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪
刑事上の罪としては上記のような罪が挙げられます。SNSで誹謗中傷トラブルにおいて、ニュースなどでも一番多く名前を聞くのが「名誉毀損罪」「侮辱罪」であると言えます。ここでは、「名誉毀損罪」と「侮辱罪」について簡単に説明します。
【名誉毀損罪】
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
名誉毀損罪・侮辱罪ともに、犯罪と判断する条件に「公然と」という文言があります。SNSなどインターネット上における発言は、インターネットに接続できる環境にいる人であれば誰でも閲覧することが可能です。そのため、SNSに書き込まれた内容は基本的に「公然と」の条件に当てはまる事になります。
SNSには「鍵アカウント(非公開状態のアカウント)」や「DM(ダイレクトメール、SNSを通した個人またはグループでのメール機能)」もありますが、ここでの内容をスクリーンショットなどで撮影した上で公開アカウントに投稿した場合も「公然と」の条件に当てはまるため注意が必要です。
「公然と」「事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合には「名誉毀損罪」が当てはまります。ここで言う「事実」とは、「不倫をしている」「脱税をしている」など具体的な行動の事を言います。また、「事実」は「真実」とは異なる概念とされているため、ここで摘示された「事実」が真偽どちらの場合でも名誉毀損罪になり得ることがポイントです。
似たような犯罪として、「侮辱罪」があります。こちらには「事実を摘示しなくても」という文言があるので、相手の具体的な行動を摘示せず誹謗中傷をした場合に当てはまります。例えば「この人は馬鹿だ」「生きている価値のない人だ」など人格的な価値を貶めるような発言を伴った誹謗中傷のことです。
これらの犯罪について、SNSで直接誹謗中傷を投稿した犯人だけではなく、その投稿をリツイート機能やスクリーンショットによる撮影画像を添付した投稿などで拡散した人も罪に問われる場合がある事も覚えておくと良いでしょう。
SNSでの誹謗中傷が「名誉毀損罪」や「侮辱罪」、それ以外の犯罪に当てはまる条件については、こちらの記事でより詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。
参考:【特集】SNS等の誹謗中傷 | 安心・安全なインターネット利用ガイド | 総務省
SNSで誹謗中傷を受けた時にやるべきこと
自分がSNSでの誹謗中傷の被害にあってしまったら、どのような行動をすれば良いのでしょうか?万が一の場合でも適切な対処を行い、自分を守る行動ができるように「SNSで誹謗中傷を受けた時にやるべきこと」を紹介します。
信頼できる機関に相談する
SNSで誹謗中傷を受け、自分ひとりではどうしようもない場合は、まず信頼できる機関に相談しましょう。誹謗中傷を受けて困っていることを誰かに聞いてもらうことで、心が少し軽くなったり、解決の糸口が見つかったりする場合があります。電話やメール、WEBチャットなどを利用して誰にも知られずに相談できる機関もあります。
インターネット違法・有害情報相談センター
引用:インターネット違法・有害情報相談センター(総務省支援事業)
インターネット違法・有害情報相談センターは総務省の支援事業です。個人情報の流出や肖像権の侵害、リベンジポルノの被害だけではなく、誹謗中傷やネットいじめにあたると思われる書き込みをされた場合でも相談が可能です。
被害を受けている人の代わりに削除などの対応は出来ませんが、もしも被害者本人が自分で対応を行いたい場合にはプロバイダ責任制限法等、インターネット上の違法についての情報提供を受けられたり、アドバイスをもらったりする事が可能です。
法務省「インターネット人権相談窓口」
こちらは法務省人権擁護局の相談受付ページです。人権問題に関する相談や、いじめなどの相談を受け付けています。インターネット上のプライバシー侵害や名誉毀損についての解決事例もあります。
女性専用の相談窓口や、子どもの相談窓口、外国語での相談が可能な窓口など、被害者の境遇にあわせた窓口が用意されているのも特徴のひとつです。
参考:法務省:人権侵害を受けた方へ「人権侵害による被害者の救済事例」
厚生労働省「まもろうよ こころ」
こちらは厚生労働省のホームページ内にあるページで、「悩みがある方・困っている方へ」をコンセプトに、広く悩みがある方向けの相談窓口を紹介するリンク集のようなものです。電話だけでなく、LINEなどのSNSでの相談を受け付けている機関の紹介もあります。
生活困窮・法律・金融等についての相談窓口も紹介されているので、「誹謗中傷に対してどのような対策を行うかはまだ考えられないけれど、とにかく誰かに話を聞いてほしい」という方から、「法的な対応も含めて相談したいけれど、どう調べればよいかわからない」という方まで利用することができます。
参考:総務省|教育情報化の推進|#NoHeartNoSNS(ハートがなけりゃSNSじゃない!)
参考:あなたは大丈夫?SNSでの誹謗中傷 加害者にならないための心がけと被害に遭ったときの対処法とは? | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
SNSの運営者に誹謗中傷の削除を依頼する
個人でできる対策としては、SNSの運営者に誹謗中傷の削除依頼を申請する方法があります。基本的に、それぞれのSNSでは利用規約や投稿のルールが設定されている場合がほとんどであり、規約には「ルールに違反している投稿は運営者の方で削除する可能性がある」という旨の文言が見られる場合も多くあります。
自分への誹謗中傷が書かれた投稿を運営者に指摘した場合、リベンジポルノに関する内容や公開されていない個人情報など、「早急な削除が必要」と判断できる投稿であれば、運営者の判断で削除して貰える場合があります。
それ以外の、法律や利用規約などのルールに違反している投稿に関しては、プロバイダ責任制限法に則った削除申請が必要になってきます。SNSへの投稿の削除申請は、被害を受けている本人または被害者から代理を依頼された弁護士のみ可能です。
また、X(旧:Twitter)やInstagramといったユーザー数の多いSNSでは、第三者でも不適切な投稿を発見した際に運営側に「不適切な投稿である」という旨を通報できる機能が備わっているものもあります。必ず削除に至る訳ではありませんが、多くのユーザーから通報があった場合には投稿の削除や該当ユーザーの投稿制限、アカウントの凍結などに至る場合もあります。
SNSに書き込んだ相手への責任を追求する
X(旧:Twitter)やInstagramといったSNSは、メールアドレスだけで登録が可能であったりなど、匿名で利用できるものがほとんどです。そのため、誹謗中傷を行った相手に法的な責任を追求するためには、基本的に相手を特定しなければなりません。
現在、匿名の相手を特定するための手続きなどを簡略化できるよう法律を整備する動きもありますが、現行の法律ではまだ複雑な手順が必要です。もしも、SNSでの誹謗中傷の被害が大きく、相手に対して民事(慰謝料)・刑事での責任を追求したい場合は弁護士に相談しましょう。
匿名でSNSに誹謗中傷を投稿した相手の特定作業手順や注意点については、こちらの記事を参考にしてください。
まとめ|SNSは誹謗中傷がおこりやすい!対処法をしっかりと把握しておこう
SNSは匿名性が高く、大人数の中に紛れて発言できるため「没個性化現象」が起こりやすいと言えます。そういった環境の中での発言は、普段よりも攻撃的になりやすい事が心理学の分野からも証明されています。
とはいえ、SNSの誹謗中傷を一切受けないために、現代のコミュニケーション手段としてメジャーであるSNSを利用しないという選択が難しい人もいるでしょう。また、自分がSNSを利用していなかったとしても、自分に関する誹謗中傷が別のユーザーから広まってしまうという場合もあります。
そういった事実を踏まえ、万が一に備えてSNSの誹謗中傷に対する知識と対策方法を覚えておくことは有効と言えるでしょう。どうすれば良いか全くわからない、精神的に辛いという場合は、まずメールや電話、LINEでの相談を受け付けている機関に相談してアドバイスを貰いましょう。
SNSの誹謗中傷は、内容に違法性があれば削除することが可能です。多くのユーザーを抱えるSNSでは、運営への削除申請フォームなどが設けられている場合が多いので、まずは自分でもできる方法で削除申請を試みるのがおすすめです。
削除が通らなかった場合は、法的な手続きを踏んで削除を行う必要がありますので弁護士に相談してみましょう。もしも誹謗中傷ととれる投稿が違法と認められなかった場合は、誹謗中傷対策を行っている会社に対策方法を相談してみるのも良いですよ。
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清水 陽平