SNSやインターネット上での誹謗中傷は、個人や企業にとって深刻なリスクとなりえます。
情報の拡散による特定の人物や組織への攻撃は日常的に発生しており、その被害は心理的・経済的損害に及びます。
さらに、情報の拡散速度が速い現代では、一度広まった情報を完全に取り消すことは非常に難しいと言われています。
そのため、個人や企業の規模に関係なく、誰もが被害者になる可能性があることを理解し、対策を講じる必要があります。
本記事では、誹謗中傷の基本的な予防策、被害発見時の初期対応、さらに法的な解決策や予防策について詳しく解説します。
誹謗中傷とは?基礎知識について
まずは、誹謗中傷の定義や法的な位置付けについて解説します。
誹謗中傷と名誉毀損の違い
誹謗中傷と名誉毀損は混同されがちですが、それぞれは異なる概念です。
特に法的な対応を行う際には、この違いを理解しておくことが重要です。
誹謗中傷
誹謗中傷は法律用語ではなく、一般的な用語として使われます。
根拠のない悪口や虚偽情報などのほか、個人や企業にとって不都合な情報が指摘されている場合などにも使われています。
根拠のない噂の拡散: 真偽が不明の情報をあたかも事実であるかのように広める行為
人格否定:外見や性格、能力などを侮辱し、個人の尊厳を傷つける発言
虚偽の事実の流布: 全くの嘘や事実と異なる情報を発信し、相手の信用や評判を失わせる行為。
誹謗中傷は主観的な悪意や敵意に基づくことも多く、被害者に大きな心理的負担をもたらします。
名誉毀損
名誉毀損は刑法230条に定められている法律用語であり、民事上も同じような意味で使われます。
事実の公表により特定の個人や団体の社会的評価を低下させる行為が名誉毀損に該当します。
事実の歪曲: 事実を誇張したり、一部を隠したりして、相手の評判を貶める行為
過去の過ちの暴露: 過去の犯罪歴や失態などを公表し、社会的な信用を失墜させる行為
名誉毀損は個人だけでなく企業の信用や社会的評価にも重大なダメージを与える可能性があります。
SNS上での誹謗中傷が増加している理由
誹謗中傷が増加している背景には、以下の特徴が挙げられます。
匿名性
SNSやインターネットでは、実名を明かさずに情報を発信できる環境が整っています。
この匿名性が、責任感の欠如や、社会的ルールから外れるような過激な発言を助長する一因となっています。
匿名だからこそ、普段であれば発言を控えるような無責任な投稿や誹謗中傷を行うユーザーが増え、問題が深刻化しています。
即時性と拡散力
SNSの最大の特徴の一つが、投稿内容が瞬時に広範囲に拡散する「即時性」と「拡散力」です。
この特性により、誹謗中傷の投稿もまた、短時間で広く拡散されてしまいます。
さらに、SNSの「いいね」や「シェア」などの拡散機能が拍車をかけ、一度拡散し始めるとその制御が非常に難しくなり、被害者に与える影響は瞬く間に拡大します。
感情的な投稿のしやすさ
SNSは手軽に情報を発信できるプラットフォームであるため、感情的な投稿をしやすい環境が整っています。
特に、冷静さを欠いた状態で発信された内容が、結果的に他者を傷つける誹謗中傷となるケースも少なくありません。
投稿者が意図しなくても、感情的な表現が相手に対して攻撃的に受け取られることでトラブルが生じることもあります。
これらの要因が相まって、SNS上での誹謗中傷は増加の一途をたどっています。
匿名性や拡散力といったSNSの特性が誹謗中傷の温床になっているため、その対策が急務となっています。
被害発見時の初期対応
誹謗中傷を発見した際の初期対応は、その後の解決に大きな影響を与えます。
次の手順を踏むことが重要です。
証拠を収集する
まず最初に行うべきは、証拠の確保です。SNSやインターネット上の投稿は、投稿者が削除・編集することが可能であり、証拠が失われるリスクがあります。
以下の方法で証拠を集めます。
パソコンによるPDF印刷:フッダーにURLが表示される設定にし、個別投稿を表示した上でPDF印刷をします。
スクリーンショットの撮影:投稿者名、投稿日時が明確に分かる形で記録します。
パソコンがなければ、やむを得ずスクリーンショットでもよいですが、タイムラインのスクリーンショットだと投稿日時が不明で、相手を特定したいといった場合には対応ができなくなる可能性が高いです。
証拠が十分に確保されていれば、その後の削除依頼や法的手続きが円滑に進みます。
削除依頼を行う
証拠を収集したら、次に削除依頼を行います。
削除ポリシーを確認
各SNSやウェブサイトの削除ポリシーに基づき、該当する投稿が規約違反に該当するかを確認します。
削除依頼フォームの利用
プラットフォームが提供する公式の削除依頼フォームに必要事項を記入し、証拠を添付して送信します。
運営者への直接連絡
フォームで解決しない場合は、運営者に直接問い合わせを行い、必要に応じて法的措置を示唆します。
この対応により、スムーズな削除が期待できる場合があります。
誹謗中傷被害を解決するための法的措置
被害が重大で、初期対応だけでは解決しない場合には、法的措置を検討します。
法的措置を講じることで、投稿の削除や加害者への責任追及が可能になります。
削除請求の手順
誹謗中傷の投稿を削除するためには、プロバイダ責任制限法に基づく削除依頼を行います。
この法律は、投稿をホストするプロバイダ(SNS運営会社やウェブサイト管理者)に対して、投稿の削除を求める手続きを定めているわけではありませんが、プロバイダが削除をしても責任を問われない場合について定められています。
送信防止措置依頼書の送付
削除を求める対象や投稿内容、理由を具体的に記載した文書を、プロバイダに送付します。この際、収集した証拠も添付します。
プロバイダの対応を待つ
プロバイダは、通知を受けた後に発信者に削除に応じるかどうか意見照会を行い、その結果を踏まえ削除するかどうかを判断します。
対応がない場合の追加措置
プロバイダが削除に応じない場合、または不十分な対応の場合、弁護士の助言を受けて次の法的手段を検討します。
送信防止措置依頼は比較的短期間で結果が得られるため、迅速な対応が求められる状況では非常に有効な手段です。
損害賠償請求の手順
誹謗中傷が原因で金銭的・精神的な損害を被った場合、加害者に対して損害賠償を請求できます。
この手続きは以下の流れで進めます。
通知書の送付
加害者に対して内容証明郵便などを利用して損害賠償を請求します。この文書には、請求の理由や証拠を明記し、指定した期限内に対応を求めます。
裁判手続の開始
加害者が応じない場合、民事裁判を提起します。この際、弁護士に依頼することで、法的なサポートを受けながら訴訟を進めることができます。
裁判に進む場合は時間やコストがかかることがありますが、通知書と違い強制力を持たせることができることが大きなメリットです。
弁護士への相談とそのメリット
誹謗中傷問題を解決する際、弁護士に相談することは多くのメリットをもたらします。
弁護士は、被害者の代わりにプロバイダや加害者との交渉を行い、削除や損害賠償請求をスムーズに進めることができます。
法的な観点から最適な解決策を提示してくれるため、被害者自身の負担が大幅に軽減されます。
弁護士を通じて手続きを行うことで、相手に対する法的圧力を効果的に行使でき、迅速な解決が期待できます。
また、被害者が直接交渉する精神的負担を軽減する効果もあります。
特に誹謗中傷の内容が複雑または悪質である場合には、専門的な支援を受けることが不可欠です。
誹謗中傷を未然に防ぐための予防策
誹謗中傷の被害を完全に防ぐことは難しいですが、事前の準備や仕組みを整えることでリスクを大幅に軽減できます。
SNSガイドラインの策定と遵守
企業や組織では、SNS利用に関するガイドラインを策定し、従業員や関係者に周知徹底することが重要です。
ガイドラインには以下の内容を盛り込むと効果的です。
・誹謗中傷をしない、拡散しない
・社内情報の外部漏洩を防ぐ
・誹謗中傷が発生した際の対応フローを明確化する
個人の場合でも、自分自身が誹謗中傷の加害者にならないために、SNSでの発言は投稿前のチェックを徹底し注意を払いましょう。
感情的な投稿や攻撃的な表現を避けることが、不要なトラブルを回避する鍵です。
モニタリングツールの活用
誹謗中傷の予防には、SNSやインターネット上の情報をリアルタイムで監視できるモニタリングツールの活用が効果的です。
これらのツールは、特定のキーワードやフレーズを監視し、問題となる投稿が見つかった場合に通知を送る仕組みを持っています。
たとえば、企業名や商品名、個人の名前に関連するネガティブな投稿が検出された場合、すぐに状況を把握できるため、早期対応が可能になります。
これにより、問題がある投稿の把握や初期対応が可能となり、被害拡大を未然に防ぐことができます。
誹謗中傷対策のための社内教育
特に企業では、誹謗中傷の発生に対しての予防策として、従業員を対象とした誹謗中傷対策の教育を実施することが重要です。
教育プログラムには以下を含めると効果的です
・誹謗中傷が企業や個人に与える影響についての理解
・被害発生時の初期対応手順(証拠収集、削除依頼、法的手段など)
・モニタリングツールや削除依頼フォームの使用方法
また、対応窓口を明確にし、専門部署や担当者が問題を迅速に解決できる体制を構築しておくことが大切です。
まとめ|誹謗中傷対策の鍵は迅速な対応と予防
SNSやインターネット上での誹謗中傷に対処するためには、迅速な初期対応と適切な法的手段の活用が欠かせません。
特に法人においては、社内でのモニタリングツールやSNSガイドラインを活用し、リスクを早期に察知し、防止する体制を整えることが重要です。
また、深刻な被害を受けた場合、弁護士や専門家の助言を受けることで、問題解決のスピードと精度が大幅に向上します。
デジタル社会では情報管理が一層重要となるため、個人や企業は事前準備を整え、早期の対策を講じることが成功の鍵です。
清水 陽平