ネット炎上予防

【弁護士監修】効果的なSNS社内規定の策定方法とは

SNS社内規定01

一昔前まではSNSの炎上と言えば若い従業員が悪ふざけ投稿をする、いわゆるバカッターが主流でした。

しかし今では企業SNSの運用不備、SNSを介した内部告発、上司や経営者からのLINEや社内メールの流出など、炎上のきっかけは日々バリエーションを増しており枚挙に暇がありません。

テレワークが普及しSNSに触れる社員が増えたご時世で、SNS社内規定を設けようとしている人事担当者も少なくないのではないでしょうか。

ここではSNS社内規定の策定ポイントや違反した従業員への対応などを解説します。

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SNS社内規定の目的とは

SNS社内規定02まずはSNS社内規定を設ける目的について考えてみます。

もちろんですがSNSに関わる規定は就業規則の様に法律で作成が義務付けられているわけではありません。

それでもSNS社内規定を設ける目的は「トラブルを予防しモラルを向上させるため」にあると思います。

会社というより組織は人数が増えれば増えるほど、それぞれが持っている「当たり前」が増えていきます。100人いれば100通りの当たり前が存在するので、会社の考えとの乖離が生まれることになります。

SNS社内規定07

特にSNSは個人の使い方や世代によって「当たり前」のレベルに相当差が生じるので、余計なトラブルを予防し社員のモラルを向上させる目的で社内規定を設定する必要が出てきます。

SNS社内規定の策定ポイント

SNS社内規定03では具体的にSNS社内規定を策定する際に必要なポイントを解説します。

規定を設ける目的を明文化する

まずはSNS社内規定の目的を明文化することです。

従業員に「何のための規定なんだろう?」「ただの締め付けではないのか」などと思われてしまったら策定の意味がありません。

企業側の目的は先述の「トラブルを予防しモラルを向上させるため」にあると思いますが、従業員に対してははきちんとした説明を行いましょう。

例えば、キャラクタービジネスを展開している株式会社サンリオはSNS社内規定をソーシャルメディアポリシーとして公開しています。

その序文にはこのように記述されています。

SNS社内規定06

サンリオは1960年の創業以来、ソーシャルコミュニケーションの考え方を基本に、ソーシャルコミュニケーションビジネスを行ってきました。

私たちは、人と人とのコミュニケーションを通して、平和な社会を作っていこうと、「Small Gift Big Smile」を合言葉に、親子・兄弟・友達同士が贈り物にカードを添えて贈り合うことで、お互いに仲良く、助け合って、生きて行くことを提唱し続けています。

そしてソーシャルコミュニケーションの大切さを世界中に広めて、一人でも多くのひとに感じてもらいたいと願っています。

この願いはインターネットを介したグローバルなコミュニケーションが可能な「ソーシャルメディア」を通じてもより広く伝えられると考えています。

「ソーシャルメディア」を通じて世界中の人々が支えあい、助け合って生きていけるように、私たちはサンリオのキャラクターとともにメッセージを発信していきたいと考えています。

引用:株式会社サンリオ『ソーシャルメディアポリシー』

この策定の目的をまとめると下記の様になります。

  • サンリオは創業以来「ソーシャルコミュニケーション」という考え方を大切にしてビジネスを展開している
  • この考え方はSNSを用いることでグローバルに展開することが出来る
  • サンリオの理念を正しく伝えるためにソーシャルメディアポリシーを策定している

サンリオの例までとはいかずともユーザー目線、もしくは社員目線での目的を設定することを忘れてはいけません。

一方的な押し付けだけのSNS社内規定では正しいスタートを切ることが難しいでしょう。

具体的な禁止事項を明示する

次に具体的な禁止事項を明示しましょう。

SNS社内規定がただのスローガンになってしまっては意味がありません。○○はダメと具体的な例を示すことであやふやな運用になることを防ぐことが出来ます。

例えば下記のような内容は、個人アカウントでも会社アカウントでも明確に禁止する必要があります。

SNS社内で規定したい禁止事項
  • 差別やヘイトスピーチ
  • 会社や個人の信用を失墜させるような内容
  • 特定の個人や法人への誹謗中傷・名誉毀損
  • プライバシーの侵害
  • 違法行為の自慢
  • 社内機密の漏洩

禁止事項については別途マニュアルを作成するのも有効です。

罰則規定を設ける

禁止事項を明示したら、違反をしたら罰則があることを明文化しましょう。

実際に懲戒処分に出来るかどうかは後述しますが、規定の中に罰則があると書いてあるだけで一定の抑止力にはなるでしょう。

規定を作っただけで終わらせない

一番大事なポイントがここです。

せっかくSNS社内規定を作ってもそのルールが周知徹底されなければ、トラブルの防止にもモラルの向上にも繋がりません。

方法として社内掲示板や朝礼でリマインドするなど様々な方法が考えられますが、おすすめなのは同時並行で「SNSリスクリテラシー研修」を行うことです。

ワークショップなどのアウトプットを伴う研修を行うことで、SNS社内規定を自分ゴトとして捉えてもらうことが可能になります。

研修の実施は自社リソースでも問題ありませんが、炎上やSNSリスクリテラシーに精通した専門家に依頼するのがより効果的でしょう。

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実際にSNS社内規定に違反した従業員は懲戒できるのか

SNS社内規定04
では実際にSNS社内規定に罰則規定を設け、違反した従業員が出てきた場合に懲戒処分にすることは可能なのでしょうか。

懲戒処分は問題行動を起こした本人に処罰を与えることだけではなく、従業員全員に対して懲戒処分に値する行為を明確に示すことで再発防止や秩序の回復を図ることができます。

一般的に会社が社員を懲戒処分にする場合は下記の3つ要件をすべて満たす必要があります。

  • 懲戒の根拠となる規定がある
  • 懲戒事由に該当する事実がある
  • 懲戒処分の内容の程度に相当性がある

SNS社内規定に罰則規定を盛り込むだけでなく、就業規則に「懲戒処分の種類」と「懲戒の事由」を明記しておくことが重要です。

懲戒処分の根拠となる法律

懲戒処分を行うには先述の通り就業規則に基づいて判断する必要があります。

その根拠となる法律は下記の通りです。

労働契約法第7条

労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
引用:e-GOV 労働契約法第7条

労働契約法第15条

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
引用:e-GOV 労働契約法第15条

懲戒の根拠となる規定があるか

まずはSNS社内規定策定のポイントでも触れた根拠規定があるかどうかです。

懲戒処分を科すためには、「使用者が労働者を懲戒することができる場合」でなければなりません。

そのためSNS社内規定に違反した従業員を懲戒処分にするには、就業規則などで懲戒の理由となる項目が明記されている必要があります。

逆に懲戒のルールが就業規則などで定められていなければ懲戒処分をすることはできません。

懲戒事由に該当する事実があるか

次に従業員の行動が就業規則上の懲戒事由に該当し「客観的に合理的な理由」が認められる必要があります。

ここで重要になるのは懲戒処分の対象となる行動について事実関係の調査等が適切に行われているかどうか、その労働者の行動が懲戒事由に該当することを立証できるだけの証拠が十分にあるかどうかです。

疑わしいけれども証拠がない場合などは客観的に合理的な理由があるとは言えないケースがあります。

懲戒処分の内容の程度に相当性があるか

最後に「懲戒処分の該当する行動とその処分の内容に均衡がとれているか」が大切です。

科された懲戒処分が、対象となった従業員の行為の性質や労働者の情状等の事情に照らして重いと判断された場合、その懲戒処分は無効となる場合があります。このバランスを判断する際には労働者の行為の態様や動機、業務に及ぼした影響、損害の程度だけでなく、労働者の態度や情状、処分歴などについても考慮する必要があります

SNS社内規定に違反した事案を考えると、違反によって実際に企業がどの程度の悪影響や風評被害、経済的損失を受けたかといった点を考慮して処分内容を考えることになります。

まとめ|SNS社内規定は周知徹底のサイクルが重要

SNS社内規定05SNS社内規定は「目的の明文化」「具体的な禁止事項を明示」「罰則規定を設ける」ことで効果を発揮します。

さらにSNSリテラシー研修を行うことで周知徹底のサイクルを構築することが出来ます。

従業員にSNSを禁止することは現実的に不可能なので、正しくSNS社内規定を策定して、従業員のモラルの向上を図ることでトラブルを予防する姿勢が大切です。

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監修者
法律事務所アルシエン 共同代表パートナー

清水 陽平

清水陽平弁護士
2007年弁護士登録(60期)。2010年11月法律事務所アルシエンを開設。ネット中傷の削除、投稿者の特定、炎上対応などインターネット分野の法律問題に取り組んでいる。総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022年~)の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を務める。