レピュテーションマネジメントという言葉を聞いたことはあるでしょうか。インターネット社会とも言われる現代では、企業のレピュテーションマネジメントがとても重要視されています。
本記事では、企業を襲っているレピュテーション低下の危機事例や「攻め」と「守り」のレピュテーションマネジメントについて、そして実際にマネジメントを行う場合の具体策を紹介しています。
レピュテーションマネジメントとは?
まず、「レピュテーション」という言葉についてですが、「Reputation」とは、 「名誉」や「評判」「評価」「世評」などという意味を持つ言葉です。これを「Management(管理すること)」するので、ざっくりと言えば「評判の管理をすること」となります。
もっと深く掘り下げていくと、「レピュテーションマネジメント(Reputation Management)」という言葉には3つの側面があります。すなわち、企業のレピュテーション(評価)を「高める」という面と、「維持する」という面、そして落ちてしまったレピュテーションを「回復する」という面です。
つまり、企業のレピュテーションを「高める」「維持する」「回復する」という管理活動のことを「レピュテーションマネジメント」と言います。
近年は、インターネットの普及によるソーシャルメディア、とくにSNS(ソーシャルネットワークサービス)の拡大によって、企業はインターネット上(=オンライン)でのレピュテーションに注力するようになりました。そういった背景を踏まえたインターネット上での評判管理活動を「オンラインレピュテーションマネジメント(Online Reputation management=ORM)」と呼びます。
本記事では、主にこのオンラインレピュテーションマネジメント(ORM)について解説していくことにします。
企業にとってレピュテーションマネジメントが必要な理由
企業にとってオンラインレピュテーションマネジメントが重要になった理由のひとつに、「誰でも気軽に情報発信ができ、多くの人がオンラインで簡単に情報を入手できるようになった」という点が挙げられます。
実際に、昔は新聞紙やテレビで得ていた情報を、現在はインターネットニュースやTwitterなどのSNSから入手している方も多いのではないかと思います。多くの人が個人のスマートフォンを所持しているため、通勤時の電車の中やちょっとした休憩時間などにも手軽に情報を発信し、得られるようになりました。
企業はこの流れを汲み、企業のレピュテーションを高め、それを維持するためにオンラインでの情報発信に力を入れる必要性が高まりました。
一方、個人が手軽に情報発信を行えるという事実は、ネガティブな側面も生み出します。インターネットでは企業にとって悪い情報(クレームや内部告発など)が突然発信され、瞬く間に拡散されてしまいます。
そして、いちどインターネット上にネガティブな情報が拡散されてしまえば、基本的に完全に消し去る方法はありません。(元の発言を削除しても、スクリーンショットやWEB魚拓等に残すユーザーが少なからず存在するため)こういったリスクを低減し、もしもネガティブな情報が拡散されてしまっても即座に企業イメージを回復できるように準備しておく必要もあります。
企業がレピュテーションマネジメントを行う具体的なメリット
レピュテーションマネジメントを行うことによって企業が得られるメリットの具体例は、以下のような点です。
《高める・維持する》
- 自社サービスを利用しているユーザーの偏見のない意見を集めることができる
- 自社サービスを検討しているユーザーや他社の類似サービスを利用しているユーザーの意見から世間のニーズを知ることができる
- 自社社員のインターネットリテラシーを高める事によって、オンラインで不祥事を起こす確率を低下させることができる
- 企業の事を良く知らない人々に企業のことをアピールでき、身近な存在に感じてもらうことができる
《回復する》
- 自社に対するネガティブな投稿にいち早く気付き、ほぼリアルタイムに真摯な対応を取ることができる
- 自社サービスに対するネガティブな意見を受け止め、サービスの改善に活かすことができる
- 自社の評価を脅かす存在(偽アカウントの出現等)が出現した際にも、ユーザーに対し迅速な注意喚起を行うことができる
- 万が一炎上してしまった際にも、炎上時に社員が行うべき対応や手順を共通認識としておくことで、新たな炎上を生むリスクを下げることができる
企業のレピュテーションを落とす要因になる事象とは
企業のレピュテーションを落とす要因とは、一体どういったものが考えられるのでしょうか。ここでは、企業のレピュテーションを落とす要因となる危険性のあるものや、実際にレピュテーションを低下させてしまった事例について説明します。
偽アカウント(なりすまし)による被害
現在、様々な企業がTwitterやInstagramで公式SNSのアカウントを開設し、広報活動を行っています。そして、広報活動の一環として企業アカウントをフォローし、企業が指定する投稿のリツイートを行ったユーザーの中から抽選でプレゼントを行う懸賞企画も大変人気があります。
そういった中、企業の宣伝努力を悪用した偽アカウント(なりすまし)も多く発生し、企業およびユーザーに危害を加えているのも事実です。偽アカウントの発生は、本来企業の公式アカウントをフォローするはずだったユーザーを横取りするだけではなく、偽アカウントをフォローしてしまったユーザーに対して有害なDMを送りつけて個人情報やクレジットカード情報を盗もうとします。
また、こういった偽アカウントはアイコンやヘッダーの画像、プロフィールの文章などを企業の公式Twitterアカウントから丸ごとコピーして使っているだけではなく、重複するはずのないアカウント名(ID)は公式のIDに「.(ドット)」や「_(アンダーバー)」を追加したり、「_official(オフィシャル=公式)」など、ユーザーが本物を見間違ったりするようなものを設定しており、ユーザーには見分ける事が困難な場合もあります。
こういった偽アカウントを放置しておくと、評判を貶める可能性もあるでしょう。企業は、まず「偽アカウント」が発生しているという事実をいち早く掴み、ユーザーが混乱しないよう速やかな注意喚起を行う必要があります。
引用:西武・そごう公式ホームページ【重要なお知らせ】弊社公式SNSの「偽アカウント」にご注意ください
上記で紹介している2つの企業は、「偽アカウント」の発生について非常にわかりやすく危険性を示し、本物のアカウントとの見分け方を説明している具体例となります。
さらに、こういったなりすまし行為は主にTwitterやInstagramでの被害が多く見られますが、人々に名の知れたブランドなどはデジタル広告での被害に遭ったパターンも存在します。
参考:【重要なお知らせ】西武・そごうおよび西武・そごうに出店する海外有名ブランドの名前を不正に利用した悪質なデジタル広告・サイトにご注意ください
公式アカウントの不適切発言や不適切な企画
企業の公式アカウントでは、多くの人々に親しみを持ってもらうため、アカウント運用者(所謂、「中の人」)にある程度発言の自由を与えている企業も多くあります。
この「自由な発言」の権限を与えることにより、企業公式アカウントの運用者は一般のフォロワーからのリプライに対しリアルタイムに「面白い」「すごい」と思わせる反応ができ、その結果として企業のファンを作り出します。
その一方で、企業のアカウント担当者が自由に発言できる環境にしておくことにより、「中の人」の考え方や使用する言葉が原因となって炎上を招いてしまう場合もあります。
例えば、2021年8月には、とある観光ガイド協会の公式Twitterが、「セクシュアルハラスメントや人種差別を含む不適切な内容」を発言したとして問題になりました。このアカウントは、観光地についての発信を行うためのアカウントであったため、結果的に協会だけでなく観光地そのもののレピュテーションを落としてしまう事態にもなりました。
また、今回の件では、同じ観光地の保護財団(公益財団法人)からも「女性差別、民族差別、人種差別に該当する発言が相次いでいる事態を受け、同じく尾瀬に関わる組織として、遺憾の意を表し」として抗議文が発表されただけではなく、一部の新聞にも事件が掲載されました。
後日、公式ホームページでは丁寧な謝罪文や差別的投稿の経緯や問題点・今後の方針の掲載など誠意のある対応を行いましたが、投稿者である広報委員長や協会の会長を含む役員2名には厳しい処分が下されています。
引用:当該観光ガイド協会公式ホームページに掲載された謝罪文の一部
このケース以外にも、同じように公式アカウント運用担当者のリテラシー不足による炎上は数多くあり、担当者に厳しい処分が下されただけではなく、一部のユーザーによる不買運動やネガティブイメージの投稿が広まり、レピュテーションの回復に苦労する企業もあると考えられます。
このような事態を防ぐためには、SNSアカウント運用担当者だけではなく、企業の役員や担当の部署に所属している社員、できれば企業に所属している社員全体が「SNSではどのような発言が不適切となるのか」「炎上してしまいそうな投稿を防ぐにはどのようにすれば良いか」「もしも炎上してしまった場合にはどのように対応すれば良いのか」などといったSNSの使い方を知っておく必要があります。
参考:「まるで女性専用車」不適切投稿なぜ連発? 尾瀬ガイド協会、「5000字の反省」で示した4つの原因: J-CAST ニュース
参考: 尾瀬保護財団公式ホームページ「尾瀬ガイド協会の公式Twitterにおける相次ぐ差別的発言について」
参考:女性へ嫌悪感、民族差別的な投稿 公式ツイッター問題で再発防止策と関係者処分を公表 尾瀬ガイド協会
攻めのレピュテーションマネジメントの方法【高める・維持する】
企業のレピュテーション「高める」「維持する」という目的のレピュテーションマネジメントは、しばしば「攻めのレピュテーションマネジメント」と言われます。
企業にとってレピュテーションを維持する活動を続けるのは大切です。それだけではなく、知名度が低く企業としてのレピュテーションが高いとは言えない企業はもちろん、ある程度の評判を得ている企業であっても企業のさらなる成長を狙うためには、今まで維持していたレピュテーションを高める必要があります。
それでは、具体的にどのような方法でレピュテーションを高めていくのかという点について説明します。
広告やSNSなどの発信をまめに行う
企業のレピュテーションを高めるために、広告の配信やSNSでの情報発信をまめに行うのは基本です。近年では、主に「Twitter」「Instagram」「YouTube」といったSNSを活用し、アピールを行う企業が増加しています。
企業がどんなに良質なサービスを提供していても、多くの人にそのサービスを知ってもらわなければ、企業の評判を高める事はできません。情報を広く伝えるには、全世界に繋がるインターネットは最適なツールと言えます。
Twitterでの公式アカウント運用によって多くのファンを獲得した企業の前例もあります。Twitterは他のSNSに比べて「リアルタイム性が高く」「双方向のコミュニケーションに特化」したツール。リスク回避のため、インターネットリテラシーの高い社員をアカウントの運用者である「中の人」として選任する必要はありますが、上手に利用できれば企業の販促だけではなく、クレームに繋がりそうな内容へのフォローなども可能です。
参考:セガ、ハンズ、井村屋…人気SNSの「中の人」が明かすファンの育て方 | 要約の達人 from flier | ダイヤモンド・オンライン
定期的なエゴサーチで情報を収集する
情報が溢れているインターネットをうまく利用し、企業に有益な情報をピックアップすることもレピュテーションマネジメントに繋がります。エゴサーチ(エゴサ)とは、企業の名前や役員名、企業が提供しているサービスやブランド名について検索することを言います。
企業がエゴサーチを行う事のメリットは、一般の消費者(=自社サービスの顧客だけではなく、検討中の人やサービスがある事を知ったばかりの「顧客予備軍」)のフラットな意見を集めることができる点です。もちろん、発言者は企業の担当者が見ることを想定して投稿している訳ではないため、偏見やダメ出しといった厳しい意見が見つかることもあります。
しかし、ポジティブな意見・ネガティブな意見どちらも把握することによって自社サービスのクオリティを上げていきたいと考えている場合には、エゴサーチを行うことは一般のリアルタイムな意見を拾える貴重な機会だと言ってよいでしょう。
複数のSNSや口コミサイトにログインし自社の評判を探す行程が手間だと感じる場合は、監視ツールや社外の監視サービスを利用しても良いかもしれません。
守りのレピュテーションマネジメントの方法【回復する】
前述の「攻めのレピュテーションマネジメント」に対して、企業のレピュテーションを「回復する」目的のレピュテーションマネジメントのことは「守りのレピュテーションマネジメント」と言われています。
サービス利用者の不満によるクレーム投稿の炎上や、外部の人間からの悪意による風評被害、企業の不祥事(内部告発や情報漏洩、バイトテロなど)によって下がってしまった企業のレピュテーションを回復するために行う活動の方法について説明します。
ソーシャルメディアポリシー・ガイドラインの策定を行う
ソーシャルメディアポリシー・ガイドラインとは、企業がどのようなルールやスタンスでソーシャルメディアを利用するのかという指針を定め、解説したものです。
「ソーシャルメディアポリシー」は企業のサービスを利用するユーザー(顧客・社外)向けの解説、「ソーシャルメディアガイドライン」の方は企業内の従業員向けの解説、と区別される場合もあります。
ソーシャルメディアポリシーやガイドラインの策定は、ソーシャルメディアを利用するにあたって起こり得るトラブルをできるだけ回避するという目的で策定されます。
盛り込む内容は、「ソーシャルメディア利用の目的・スタンス」「発言してはいけない内容(誹謗中傷・差別など)の明確化」「免責事項・削除方針などトラブル対応について」などといった項目を中心に、企業によって必要な項目をカスタマイズしていきます。
例えば、社外向けに策定された「ソーシャルメディアポリシー」の一環として、実際に企業が運用しているSNS公式アカウントのリストを掲載している企業も多くあります。
このように企業が公式に運用しているアカウントのリストを公式ホームページに掲載しておくことで、アカウントの周知に繋がるだけではなく、ユーザーが「どれが『本物の』企業公式アカウントなのか」を瞬時に判断することができます。今でもよく散見される企業の「なりすまし」アカウント対策にも繋がるでしょう。
万が一「なりすまし」アカウントが発生しても、注意喚起とともに「ソーシャルメディアポリシーの中に掲載されている企業公式アカウントのリスト」をアナウンスすれば、ユーザーにも迅速に「どれが本物か」を伝えることができます。
参考:ソーシャルメディアガイドライン|味の素冷凍食品
参考:SNS公式アカウント|味の素冷凍食品
参考:TOHOシネマズ ソーシャルメディア ガイドライン || TOHOシネマズ
参考:SNS公式アカウント一覧 || TOHOシネマズ
炎上対策マニュアルの策定を行う
先ほど紹介したソーシャルメディアポリシーやガイドラインに対し「炎上対策マニュアル」とは、もしも炎上が発生してしまった場合に、「誰がどのような動きをすべきか」「どのような手順を踏んで鎮火を目指すか」「二次炎上を生まないためにどんな事に気を付けるべきか」などといった項目をまとめたマニュアルの事を言います。
インターネット、とりわけSNSでの炎上は短い時間での拡散が見込まれます。そして、拡散が大きくなればなるほど事態は深刻化し、鎮火にかかる労力や企業が被る損害も大きくなります。にもかかわらず、インターネットの「炎上」はいつどこで起こってしまうのか予想もつかないのが現状です。
「適切な初動対応が企業の今後のレピュテーションを決める」と言っても過言ではない炎上対応は、レピュテーションマネジメントの観点でも重点的に対策しておくべき項目。炎上対策マニュアルをしっかりと設定しておき、炎上時の動きを社員が把握しておくことによって、間違った対応を行ったことによる二次炎上のリスクも低減することができます。
社員のSNSリテラシー教育を行う
実際にソーシャルメディアガイドラインや炎上対策マニュアルを企業で策定しても、その内容が社内の共通認識にならなくては意味がありません。また、文字で炎上した際の対処方法がまとまっていても、実際に炎上が起こった時スムーズに行動できるかどうか不安だと感じる場合もあるでしょう。
そのような場合は、ガイドラインやマニュアルを社員に浸透させるために、社内向けのリテラシー研修を開催するのがおすすめ。インターネットリテラシーの高い社員がいる場合は完全に社内で研修を開くことも可能ですが、外部の講師を招いてしっかりとした社員研修を行う企業も増えています。
例えば、株式会社エルプランニングの「SNSリスクリテラシー研修」では、研修資料や講師の手配、アフターフォローまで全て一社で行うことが可能です。インターネット上の誹謗中傷・風評・炎上対策を10年以上行ってきた実績とデータから、より「企業の求める研修内容を提案できる」という事を強みとしています。
対象の社員(新入社員向け、管理職向けなど)や、参加人数、予算などはもちろん、「どのような研修を行いたいか」というテーマなどを自由に選び、カスタマイズできるオーダーメイドの研修が人気です。オンラインでの研修も可能なので、対面での開催が不安な場合や大きな会場が押さえられない場合でも開催することが出来る点もポイント。
上記の画像にある「テーマ」のひとつである「炎上疑似体験」では、過去に起こった炎上事例をもとに、「実際にインターネットで炎上が起こってしまった」ことを想定した、「避難訓練」のような研修を行います。自社で策定した「炎上対策マニュアル」がしっかり機能する事を確認したい場合などにおすすめです。
このように、誹謗中傷・炎上対策を専門に行っているプロから学ぶ機会を設けることで、企業でもより質の高いレピュテーションマネジメントを行うことができます。対象者や規模感を考慮し、ご予算に合わせた内容でご提案いたしますので、研修をご検討の際にはぜひお気軽にご相談くださいね。
まとめ|企業は必ず「攻め」と「守り」のレピュテーションマネジメントを徹底しましょう
レピュテーションマネジメントとは、「評判の管理をすること」。厳密には企業の評価を高めて維持し、それと同時に企業の評価が下がってしまった場合にはそれを回復するといった動きのことを言います。
レピュテーションマネジメントの対象になるのは、自社のサービスや商品を利用している顧客だけに留まりません。「今商品を知ったばかりの人」「気になっている人」など、未来の顧客になり得る人々や、取引先なども含まれます。
企業にとって、自社のサービスやブランドの「評価」はとても大切なものであると言え、この「評価」のコントロールを誤ってしまったことによって企業の業績が左右されるような大事件に発展してしまった例が過去に多数存在するのも現実です。
たとえ企業にとって覚えのない風評や事実無根の誹謗中傷であった場合でも、しっかりとレピュテーションのマネジメントが出来ていなければ、企業は深刻なダメージを受ける事になります。とくに、Tiwtterなどリアルタイム性・拡散性の高いSNSに関しては十分な対策を練っておきましょう。
日頃から「攻め」と「守り」のレピュテーションマネジメントをしっかり行い、企業のイメージを高く維持できるよう努めていきましょう。
清水 陽平